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横歯会報 第144号

'96新春対談
最先端医療から歯科の将来を探る


 寶田 博  鹿島 勇

1937年 

東京都に生まれる

1947年 

宮崎県に生まれる

1961年  東京医科歯科大学歯学部卒業 1975年  神奈川歯科大学卒業

1965年

東京大学大学院卒業 1979年  神奈川歯科大学大学院卒業
1970年  東京大学講師(口腔外科学) 1982年  米国口腔・顎顔面放射線専門医認定資格合格(第41号)
1970年  テキサス大学歯学部 Instructor 1990年  神奈川歯科大学教授(放射線学)
1972年  三井祈念病院歯科口腔外科部長 1995年  神奈川歯科大学付属病院副病院長

主な肩書

担当した宇宙実験
東京大学講師(医学部・非常勤) 1990年 宇宙ステーション・ミールでのカエル実験(骨の解析、TBS秋山特派員)
日本口腔外科学会指導医 1993年  スペースシャトル・エンデバーでの卵実験(骨の解析、毛利宇宙飛行士)
日本病院歯科口腔外科協議会理事長

1994年 

スペースシャトル・コロンビアでのイモリ実験(耳石と骨、向井宇宙飛行士)
日本有病者歯科医療学会常任理事 1996年  国産H2ロケットでのイモリを使ったライフサイエンス実験の予定
日本小児口腔外科研究会評議員 1998年 カナダ・アメリカ共同のイモリ実験(耳石と骨の発生)の予定
日本顎顔面生体材料研究会理事    

司会:青柳理事

司会:新春対談として、お話をお伺いしたいと存じます。最初に、寶田先生が現在研究していらっしゃるインプラントについて、ご披露いただけますか。

寶田:私がインプラントを手がけたのは7,8年前で、そんなに長い経験があるわけではありません。以前からインプラントには興味を持っていましたが、たまたま医科歯科大学の医用器材研究所とアドバンス社が共同で開発した人工歯根の臨床治験を担当し実用化へのシステム作りに参画したのがきっかけです。

どんなインプラントかと申しますと、チタンを芯材にして骨に埋入する部分にハイドロキシ・アパタイトをコーティングしてある一体型の人工歯根です。 現在まで日本でもいくつかのインプラントが開発され、臨床に導入されてきましたが今は殆ど使われていない状態になっていますね。そういう意味では、最近のヒット作かなと自負しています。

進化するインプラント

ここで、インプラントの歴史についてごく簡単にお話したいと思います。ご存じのように、インプラントというのは、たぶん歯科医学が誕生して以来の人類の夢だったと思うんです。かなり古い時代から、いわゆるバイオロジカル・インプラントというものが試されてきました。例えば、数百年前に貝殻を削ってインプラントとして使ったというような遺跡が残っています。また、さらに逆上って抜歯した歯や奴隷の歯をわざわざ抜いて移植したという記録もあるようです。とにかく、歯の喪失したところに天然の歯や歯と同じようなもの、言い換えればバイオロジカル・インプラントで修復しようという努力がずっとされてきたわけなんですがね。

こういう考えは、現在の補綴学が花を咲かせている影で連綿として近代まで続いてきたわけですが、つい数十年前に近代インプラントロジーとして蘇ってきました。可能と思われる、あらゆる形態のもの、あるいは色々な金属が試されましたが、残念ながらこちらの方も失敗に終わっていますね。振り返ってみますとごく最近までインプラントの歴史は失敗の歴史であったともいえます。

それがご存じのようにブローネマルクが生体親和性、特に骨と相性のいいチタンを導入してから、急速に実用化の目処がついてきたというのが現状です。日本では、昭和60年代前後から急速にチタンが普及してきて、これ以前のインプラントと以後のインプラントでは、根底から違っています。また形態の上でもシリンダータイプに集約されてきております。

最近では、さらにコーディングの問題がクローズアップされてきています。コーティングの材質としてはチタンのほか、骨と優れた親和性をも積もう一つの材料であるハイドロキシ・アパタイトがあり、特に、ハイドロキシ・アパタイトコーティングのものが徐々に増えつつあるのが最近の傾向かと思います。

ただ残念ながら、ハイドロキシ・アパタイトコーディングへの批判もあります。剥離や破折の問題、さらに感染の誘導路になるのではないかという危惧などが指摘されています。

通常、ハイドロキシ・アパタイトはプラズマ熔射法によって高熱下でチタン表面に吹き付けるわけですが、その際の一部が分解して純度を下げると共に分解産物が生体に為害性を発揮するのではとの指摘もあります。私どもの方法ではこれを避けるために、ハイドロキシ・アパタイトの前駆物質ともいえるβTCPをまず熔射して、水熱処理という方法でハイドロキシ・アパタイトに変換する方法を採っています。この方法ですとハイドロキシ・アパタイトの純度の極めて高いものでコーティングができます。

いまは臨床治験の期間を含めて、すでに7年目の予後に入っています。

司会:ハイドロキシ・アパタイトは7年目で治療経過が悪くなる、と言う方もいらっしゃるようですが、その後の見通しはいかがでしょうか。

寶田:今のところ非常に成績が良いようですね。7年目に急に悪くなるということは考えられませんからね。これからの一年一年が楽しみですね。

司会:そうですか。ハイドロキシ・アパタイトの単体だとボキッと折れてしまった症例がかなりあった、と寶田先生の講演でお伺いしたんですが、チタンをハイドロキシ・アパタイトでコーティングすると、その二つの結合度合いいかんでだいぶ結果が変わってくるんじゃないかと思いますが、そこに新しい技術が導入されているということで、かなり期待が持てるような気がしております。

鹿島先生、現在までの研究のアウトラインをひとつお願いします。

鹿島:神奈川歯科大学の鹿島と言いますと、すぐに宇宙と結び付けられてしまいますが、宇宙の研究は私の仕事からはちょっと横丁に外れた、遊びの世界でして、本当の意味での私の研究は画像工学です。

1980年、アメリカに留学したときに、ゼロックス社と一緒に開発したデンタル・ゼロラジオグラフィーという装置から私の研究は始まりました。この装置は画像そのものはすばらしいけれども、結局21世紀にマッチングしていませんでした。それは何故かというと、この装置はアナログ画像だからです。しかし、21世紀は確実にデジタル画像です。それでも私は、そのゼロラジオグラフィーで10年間は研究者として飯が食えるだろう、と思って日本に帰ってきたんですが、結局3年しか持ちませんでした。

宇宙実験から縄文人へ

それで次は、デジタル画像ということで丁度フジフィルムと並行して研究を進めていた、CR(コンピューテッド・ラジオグラフィー)というX線診断装置があるのですが、この研究が実を結んだわけです。このCRを研究し始めて、もう15,6年が経過していますが、1990年に宇宙の仕事という大変な話が舞い込んできました。その大きな理由は、CRとマイクロ・フォーカス管というICチップの品質検査に用いる焦点サイズ10ミクロンのX線発生装置の二つを組み合わせて、小さなものを大きく拡大してみるというシステムを組み立てたことです。このことが、私の研究の始まりだったと思います。

宇宙のライフサイエンスの実験というのは小さな動物を使用します。このような宇宙実験には莫大なお金を使います。そのために、宇宙実験の結果が将来どれだけ人類へ貢献するかを研究者だけでなく、一般大衆にも明確に示さねばなりません。明確に示すということはテレビ受けするということです。設計図通りの画像やグラフを出しても、テレビ受けしないんです。何がテレビ受けするかというと、年寄りから子供までが、理解することのできる画像なんです。宇宙で何が生じたのかを視覚的に認識できる画像で示すのが、一番説得力があります。我々の構築した解析で、宇宙の生物実験に参加させていただいたというわけです。私の本来の研究からは、ちょっと横道から外れたんです。

宇宙の実験もやりながら、画像のほうも同時に研究してきましたが、つい最近、歯科用のCRが薬事法を通りまして今年から売り出される予定になっています。一般の歯科医院で使える、デンタルサイズのCRが開発された訳です。

そういった仕事をしていましたところ、今度は国立科学博物館から縄文人の骨を解析してくださいと依頼されました。青森県で縄文の遺跡(三内丸山遺跡)が見つかりました。彼らはかなり健康的な生活をしていたらしいんです。そこで27体の縄文人についての解析をおこないましたところ、非常に面白い結果が出ました。縄文人の骨というのは貝塚の中に放り込まれていたんですね。貝殻の成分はカルシウムです。縄文人の頭に貝殻がびっしり付着していた為に、5000年くらい前の骨がそのまま残っています。その貝殻を剥がすと、縄文人の骨が現代の骨のような形で出てくるのです。

ところが、カルシウム量を計っても、貝殻のコーティングがありましたから、真の量を測定することができません。ところが、骨梁パターンはそのまま変化することなく残っています。その骨梁を数理形態学という新しい方法で解析したのです。

その数理形態学に製薬会社のエーザイが非常に興味を持ちました。今年エーザイが「グラケー」という名前の骨粗鬆症治療薬を出しました。今までの骨粗鬆症治療薬は骨の溶けるのを防ぐ薬だったんですが、エーンK2で、骨の形成を促す薬なんです。その治療効果の判定に、目で見える画像としても、また定量的にも応用できるということで、数理形態学が注目されました。

そこで現在は、縄文人の骨を解析した手法を応用しまして、骨粗鬆症の新しい診断法の確立をメインの研究としています。主にこれは、歯科の先生よりも整形外科領域の先生と一緒にやっています。

今日は、特にインプラントを専門にされている寶田先生がいらっしゃるというので、画像を駆使した将来のインプラント・バーチャル手術といった、仮想現実の世界の話になると面白いと思います。将来、インプラントがどのような方向で脱落するかとか、いつまでもつかとか、どういう経路を辿るかとか、そういった予測医学というんですか、そういうところに私は大変興味がありますね。

むしろこれからは、先生方の疑問、どういう画像情報が欲しいのか、何を放射線医に望んでいるのかをお聞きしまして、それらの要望に応えるような解析技術の開発をしなければならないと考えています。

何故ならば、21世紀は画像工学を駆使した総合画像診断・治療から推測医療へと発展していくのは間違いないと思うからです。

ですから、そういった意味では、インプラントにも大変興味があります。

司会:老健法で4月から総合健康診断の中に、成人の歯周検査と骨粗鬆症の検査という2項目が入ってきました。

骨粗鬆症の検査で、鹿島先生が開発された装置は、レントゲンに変わるシステムとして、簡便な形でどこでもできれば、かなり意義があると思います。

先ほどのゼロラジオグラフィーの話ですけど、昔材料屋さんがサンプルを持ってきたんです。本当にきれいに写るんです、それこそ三次元じゃないかというぐらいの解像度で。しかし開業したばかりの頃だったんで、経費と点数を考えると、どうしても導入に踏み切れなかったんです。今はじっくり落ち着いて診断するというスタンスになってきましたので、より解像度の高いものが必要ではないかと思っています。

コンピュータ時代ということで、どんどんパソコンが普及しますと、デジタル化した画像の取り込みができますので、保険証がわりに患者さんに光カードを持たせて、どこの診療所でも直ぐに既往歴から何から全てそのカードで把握できるということで、大きな意義があると思います。

ところで、新しく発売される歯科用のデジタル機械の価格はどれくらいでしょうか。

鹿島:150万円くらいだと思います。そういう意味では、CCDシステムを応用したRVGよりは安いと思います。CCDシステムですと、コードが口から出ているので患者に不快感があります。

今度のCRシステムは普通のフィルムと同じ方法で撮影しまして、そのプレートを機械に入れるだけです。そうすると機械でデジタル化して画像にするわけです。それほどスペースは取りませんし、150万円という価格は一般の開業の先生方にとっては手頃ではないかと思います。

司会:というと、今までデンタルの装置をそのまま使えるということで、線量は絞れるようになっていますか、今までよりも。

鹿島:今までの1/4で遜色もないようです。

司会:10月5日付けの毎日新聞でしたか、歯科のレントゲンが脳腫瘍の原因になっているのでは、という記事が掲載されました。国民の歯科のレントゲンへのアレルギーに対して、線量を絞れるということは大きな意義があると思います。また、解像度が高いということは診断に関して非常に朗報ですし、デジタル化したということが患者の情報をどの医療機関でも共有できるので、非常に大きな意味が生じ、かなり期待できるシステムではないかと感じます。

寶田先生の講演でのスライドで、骨と相性がいいようなんですが、そういうところはデンタル・フィルムで判断するんでしょうか。

寶田:そうですね。今の段階ではどうしてもX線像、特にデンタル・フィルムが主体になりますね。

司会:鹿島先生、先程の宇宙に使ったシステムは、画像をメッシュにして骨が増えたとか、減ったとか数量的に計るんですか。

鹿島:骨の変化にはカルシウム量の変化と骨構造の変化の二種類があります。骨粗鬆症の診断も、骨塩と骨梁構造の二つを同時に考えなければなりません。

インプラント症例の場合、その周辺の骨梁構造の変化は診断のポイントになるのでしょうか。インプラントを植立した部分のどういうところが診断として重要な所見なのでしょうか。

寶田:臨床的な経験では、ハイドロキシ・アパタイトをコーティングしたものでは、植立部の骨量や構造とインプラントの間にはあまり関係がないとの印象を得ています。それはどういうことかというと、チタン単体のものでは、下顎に比べて上顎の方は成績が悪いと報告されているわけですが、ハイドロキシ・アパタイトをコーティングしたものでは、上顎でも決して予後が悪くないように思えるからです。

下顎ですと一般に皮質骨が厚いため、植立時に初期固定が得られやすいんですが、上顎ですと海綿骨が主体で、植立時、一見固定が悪いように思えます。しかし、実際は植立後、骨とのインテグレーションがスムーズに行くという印象が強いですね。この辺がコーティングの有利な点ではないでしょうか。

鹿島:血流が関係しているんでしょうか。

寶田:そういうことかも知れないですね。

鹿島:上顎は非常に血行がいいんです。今まで、インプラントの診断は、この海綿骨の縮み具合で判断されてきました。

寶田:それから骨量というお話が出たわけですが、現在客観的に判断する何か良い方法は確立されてきましたか。

鹿島:骨塩の量というのは写真からでも間接的に計測できますけれども、顎骨は難しいんですね。というのは、踵骨とか手指骨というのは簡単で意外とすぐ計れるんです。しかし、我々が扱っている顎骨は特殊ですから、計測が困難です。普通の骨は重力のかかる荷重骨なんですが、顎骨はぶら下がっている骨で、重力がかからない非荷重骨なんです。ですから、他の荷重骨と同じことがそのまま当てはまらないんです。

寶田:重力がないと、どうしても骨がひ弱になっていくといわれていますよね。だから、なるべく骨に加 トの場合に咀嚼という問題があります。骨との癒着が得られた段階で積極的に咬合力を加えたほうが言いもといわれています。

鹿島:現実はどうなんでしょうか。加えたほうがいいのでしょうか。

寶田:いいんじゃないでしょうか。それから面白いのは人工歯根を植立してから定期的に予後を診ているわけですが、X線像では人工歯根の周囲に殆ど変化が見られないですね。

だから半分冗談でいうと、人工歯根が骨の中に入ってきたのを骨が全く気がつかないんじゃないか、という感じすら受けます。

鹿島:もし異物として認知されなければ、例えばそのハイドロキシ・アパタイトの空洞の部位に骨が滑り込むということになりますね。従来のデンタル写真ですと二次元表示ですから、全ての情報が平面画像上に描出されることになります。それを何とか巧くその絡みなんかを見ようというので、スキャノラのような三次元情報の得られる装置が現在注目されています。

三次元、色彩画像へ

寶田:最近、私が注目しているのは、ヘリカルCTで連続的な情報をデータベースに入れて、後はコンピューター上で自由に断層像を得るという方法ですね。多断層再構築法、MPRというんですか、今後顎骨の診断が任意の方向で見られるという利点から、画像診断としては、インプラントに限らず口腔外科診断の有力な武器になりますね。

断層像のほか、骨梁の状態が読めますし、CT値から骨量も判断できる。残念ながら装置が高いものですから、歯科医師会とかセンターのようなものを作って、皆が共同で利用する、といった方法ができるといいですね。

鹿島:スパイラルCTのことですね。この装置はホールボディ用ですね。そのうちインプラント用の小さな装置が開発されるかもしれませんね。そうすると、後は解像力の問題ですね。

司会:開業医レベルでインプラントをやろうとして、一番問題になるのは下顎だと下歯槽管の場所、上顎だと上顎洞の場所なんです。

それが三次元の画像の上であれば、この方法でいけるなというのが分かるのでいいなと。コンパクトで、低価格で開業医のところに届けば、非常に嬉しいなと思います。

寶田:先程申し上げたMPR画像で、例えば上顎洞や下顎管などを色付けするようなことは可能ですか。

鹿島:21世紀には画像は、二次元から三次元に確実に進化していくと思います。それから、濃淡画像や色彩画像へと変化していくでしょう。現在、色々なメーカーが三次元構築、色彩画像に注目しています。将来、目的とする部位が色で表されてくる時代になると思います。

寶田:実は最近、私の知っている外科の先生から、コンピュータ外科学会というのができたという話を聞いたんですが。

鹿島:そうです。今年はベルリンで開催しました。

寶田:まさに時代の流れですね。面白そうなので入会しようかと思っています。歯科の方はまだあまりいないようです。

鹿島:学会の中にマキシロフェイシャルイメージングという分野があります。参加している先生方は、主に工学関係者と医者が多いですね。歯医者さんは非常に少ないですね。医者の中でも特にこういった分野に興味がある人ということになります。

寶田:今話題のバーチャル・リアリティではないですけど、コンピュータ画像を見ながらオペをするといったことが可能になるのではないでしょうか。

鹿島:遠い将来ではそうなるんでしょうが、バーチャル・リアリティは先ず教育、診断から入っていくでしょう。

寶田:こういった先端技術が早くインプラント外科に導入されるといいですね。ドクターが必ずしもコンピュータに詳しくなくても、注文を出せば、専門家がそれにあったソフトを開発してくれるらしいですね。

鹿島:今、アメリカで3Dビジネスというのがあるんです。交通事故などによる頭部外傷患者に対して、外科手術後に頭部に蓋をするでしょう。その蓋を手術前に注文するんです。画像はCTで撮影して、それを参考にして脳外科の先生が出来上がりを指示するわけです。そこで、ハイドロキシ・アパタイトプレートをCAD・CAMので削り込んで蓋を作成し、ちゃんと梱包して手術前に送ってくるんです。社長はインド人の女性ですが、立派にビジネスとして成功させています。

寶田:今、CAD・CAMの話が出ていましたが、実用化までにはもう一歩というところですかね。

鹿島:現在の技術では時間がかかり過ぎるんですね。

司会:CAD・CAMシステムの中でも、ポーセレンのインレーは保険に入れた方がいいんではないかと思います。手焼きのポーセレンはどうしても入手は省けませんので自費に残す。機械でもって量産化できるものは価格を下げられますから、保険に適しているんじゃないでしょか。CAD・CAMはいろんな面で歯科にも対応していってもらいたい、と感じます。

寶田:確か、青木先生のところでしたか。

鹿島:神奈川歯科大学の青木先生の教室でCAD・CAMの研究をしています。神奈川歯科大ではないのですが、私の友人の一人が実用化に向けて研究している、おもしろいものがあります。インレーの印象を採ってそれを三次元的に読み取り、自動的にインレーを作製する装置です。そういった研究が、かなり現実に近づいているみたいですから、将来ラボもかなり変わってくるんじゃないかというような気がします。

司会:インレーのポーセレンシステムは印象も要らずに光学的に形態を読み取って、それで削りだすんです。あとはマージンや裂溝を付け加えるんです。ただ値段的に1000万円を超えているか、その前後ですので、なかなか・・・。

鹿島:シンプルな四角とか曲がったところのラインは楽なんでしょうがね。

司会:あとインプラントと放射線の絡みと言いますと、前にある大学の教授がインプラントをやった当日はデンタルを撮らないと。骨の再生や付着に影響があるかもしれないから、というお話を聞いたんですが、そこら辺はどうなんでしょうか。

寶田:最近、見解が変わったみたいですね。当初は為害性があるということで、あるメーカーのインプラントでは植立初期のX線所見が殆ど分からなかった。最近は殆ど問題がないということのようですね。

私の場合は定期的に撮っていますけど。

鹿島:恐らく常識的に考えましても、そんなことはないと思います。

司会:線量からいってもそうですよね。

鹿島:それを気にしていましたら医療はできないです。普段のデンタルは撮れませんから。

恐らく、インプラント材から出る散乱線の影響を考えたのでしょう。

人工歯根膜で歯周病?

司会:歯と骨との間には歯根膜があって、あらゆるトラブルをそこで解消していると思いますが、インプラントではそれがありません。

寶田先生は将来的にもインプラントと骨はリジッドなものであるのか、あるいは歯根膜様のものができて歯牙にメカニズム的にも近づくのか、どう予測されますか。

寶田:今日は新春放談ということでお許し願いたいのですが、25年ほど前に2年間テキサス大学のぺリオの教室で、ポケット上皮を電子顕微鏡で見ていたことがあるんです。5編ほどペーパーをジャーナルに出していますが、このときの印象で、歯根膜というのは抵抗減弱部位というのか、あまりプラスになっていないのではないかと。こんなこと言うと、ぺリオの専門家に袋叩きにされるかもしれませんが。

というのは人間の食物と歯の関係を考えていますと、数百万年前に人類が発祥してから、火で調理することを習得するまで、穀物を中心として、かなり固い物をガリガリかんでいたと思うんですよ。こういう時代には確かに歯根膜があったほうがいい。ところが、調理するようになってから、食べ物が急にやわらかくなってしまった訳です。この食物の変化に歯が対応していない、というのが私の考えでなのです。

現代のように柔らかい食物を食べている限り、歯根膜は必要ないし、かえって歯周病を増悪する因子になっているのではないかと。

人工歯根膜を開発しようという研究がされていますが、人工歯根膜を付けたとたんに、ぺリオになって脱落してしまうんではないかと。

司会:余計、管理が難しくなる。

寶田:何故なら天然の歯が歯周病でだめになった後に、インプラントを植立しているのですから。それだったら、天然の歯をより長く保たせるような、別の角度からの研究をした方がいい。

そういうことで私は、基本的には人工歯根は骨に癒着していて、将来とも関係がないと考えています。

ただ、もう一つ考えなくてはいけないのは、咀嚼の際の感覚の問題がありますね。人工歯根同志で噛んだら際限なく噛んでしまうのではないかと。しかし、こんな馬鹿なことは絶対にない。人工歯根を入れた殆ど全ての方が、自分の歯のようだ、とか普段全く意識していないという感想を言っていますね。

実際に薄いものを噛ませてテストすれば、識別能力は劣るとされていますが、こういう感覚は歯根膜だけでなく、顎骨や咀嚼筋、さらに顎関節、また過去の学習などで十分代替されているのではないでしょうか。

司会:鹿島先生にお伺いしたいんですが、日本人で最初の宇宙飛行士というのは文部省では誰になっているんでしょうか。

鹿島:文部省と科学技術庁とは違うんです。宇宙科学研究所というのは文部省なんです。宇宙開発事業団というのは科学技術庁なんです。

省庁が違いますので予算も一桁違います。当然、科学技術庁の方が多くの予算を取ります。

毛利さんと向井さんは宇宙開発事業団、科学技術庁なんです。秋山さんの場合はアウトローなんです。秋山さんの場合は宇宙開発事業団とはあまり関係がないんです。毛利さんが日本人初めて宇宙飛行をすることになっていました。ところが、TBSがじゃその前に飛ばしちゃえ、と。そうすれば宇宙飛行士じゃないけれども、日本人で初めて宇宙を飛んだことになると。

ですから、宇宙飛行士では毛利さん、日本人では秋山さんということになります。それでTBSが当時のソ連と直接契約しまして、その時のライフサイエンス実験の後押しを宇宙科学研究所がやったということで、宇宙科学研究所がスポンサーということではありません。あれは単独でTBSがやったことです。その時、蛙を使ったライフサイエンス実験の計画を宇宙科学研究所が中心となって行ったんです。

司会:というと、下世話な話ですけれども子供が年表を見て、日本人で最初に宇宙に飛んだのは秋山さん、最初の宇宙飛行士は毛利さんという形で二本立てで出てくることになるんでしょうか。さらに女性では向井さんと。

鹿島:宇宙は面白い。面白いんですが、莫大なお金がかかるんです。だから評判は悪い。インタビューである人から、「宇宙のメダカよりも地球のメダカが住めるような環境を整えることをもっと考えた方がいいのでは」と言われましてね。

宇宙での生活は可能か

広報委員:ところで、重力がない宇宙で、長期滞在する場合に、人間の骨はどうなっていくんでしょうか。また、宇宙で子供は生まれるんでしょうか、また成長することはできるんでしょうか。

鹿島:宇宙に長期滞在すると、骨のカルシウムが抜けます。それで地球に帰ってきましても、元に戻るかというと90%ぐらいしか戻らないんです。あとの10%は永久にロスなんです。それが一番の問題ですね。

もう一つの問題は、宇宙で子供が産むことができるかということです。今回の向井さんの行った実験で、ちょっとショッキングなデータが出たんです。重力のかかっている荷重骨は、宇宙へ行きますと無重力状態になりますから、カルシウムが骨からだんだん溶け出します。それは、その荷重骨にメカニカルストレスという力がかかっていて宇宙では、このメカニカルストレスが開放されることによって骨の変化が生じるというような考え方でした。

ところがイモリの実験データでは、メカニカルストレスに関係なく重力は骨の発生に影響を及ぼすということがわかりました。つまり、無重力環境は固体が発生して成長を始める段階で分子レベルに影響するかもしれない、ということです。これは研究者にとってすごくショッキングなデータで、今までそんなこと言った人は、誰もいませんでした。

そうすると、宇宙に成長した大人が行けば、荷重骨からカルシウムが溶け出します。そのメカニズムは破骨細胞が増えるんではなくて、骨の形成を促す骨芽細胞の働きが弱くなっている、と動物実験や培養細胞の実験でも報告されています。

ところが、分子レベルにも影響を及ぼすかもしれない、ということは、宇宙に行って妊娠した場合が問題です。今までは妊娠している間は、子供に何ら影響がないとされていました。そして子供が胎内から出て、初めて影響が出てくるということでした。ところがそうではなく、お腹の中にいるときに、分子レベルで微小重力が影響を及ぼしているかも知れないということです。

そこで、もう一度そのことを確認する実験を1997年に、これは日本には関係なくアメリカとカナダと私達で行うことになっています。そうしますと、今までの定説がひっくり返るかもしれません。ですから、それがはっきりしない限り、人類は宇宙に永住することはできないかもしれません。つまり、宇宙では子孫繁栄ができないということになるんですね。宇宙で生まれたら、もう地球におりてはいけないということになりましょうか。今度は地球が彼らにとって宇宙になってくるわけです。深刻な問題です。

司会:無重力であれば、ステーションを自転させて遠心力で1Gを作りだすことはできると思うのですが。

鹿島:三菱重工で既に人工重力の研究をやっているということを聞いています。また宇宙は悪いことばかりでもないんです。例えば、上質のセラミックインプラント材を作るとすれば、重力がないほうが都合がいいんです。

ゴルフのチタン製ドライバーヘッドを宇宙で作るとします。そうすると、殆ど気泡がないわけですよ。気泡がボールのショックを吸収しますから、気泡のないドライバーを使うと飛距離が100ヤードは延びるでしょう。350ヤードのミドルホールなんか簡単にワンオンするということになりかねません。

将来は宇宙で医学用の新しい材質実験が注目されてくるでしょう。

老人医療の重要性増す

司会:では是非、寶田先生が研究されいてる、チタンのハイドロキシ・アパタイトによるコーティングを宇宙でやっていただくと。

寶田:インプラントの将来というと、明るい話ばかりではないのですよ。今、8020運動を一生懸命進めていますが、進めれば進めるほどインプラントやる場所がなくなるというわけです。

司会:需要がなくなるということに。

鹿島:顎関節もそうです。最初は一種のブームみたいでしたね。ところが診断法ばかりが進んで、それに伴う治療法が追いついていきませんでした。そうすると、だんだん下火になってきます。しかし、インプラントは材質が進歩していけば、まだ行けるんじゃないでしょうか。

寶田:少なくとも、ここにいらっしゃる方が生きている間は大丈夫だと思いますね。

顎関節症の話が出ましたが、今私の診療所ではかなりの数の患者さんが押し寄せています。先程ご指摘があったように、確かに診断が先行して治療法が今一つというのが現状でしょうか。ただ口腔外科では、診断を含めて顎関節を直視下で観察して、同時に手術的に治療する方法が徐々に浸透しつつあります。

話題は変わりますが、歯科の将来を考えたとき、もう一つ忘れてならないことがあるんです。8020運動によって当然歯が残るわけですが、これからの超高齢化社会では、老人性痴呆症やいわゆる寝たきり老人が急速に増加します。2025年ですか、ウン百万人になるというんですね。実は私は週に一回、老人病院で診療しているんですが、どんな歯のいい方でも寝たきりや老人性痴呆症になった途端、一気に悪くなるんですよ。

この時点で、ものすごい歯科の需要が生まれるんです。だから、これからの歯科医療は、歯科口腔ケアと急増する歯科疾患にどう対応するかが重要ですね。

司会:歯ほどメンテナンスが必要な器官はないということで、痴呆などになるとメンテナンスが止まって一気に悪くなるということですね。そういった方の保健・医療を今後拡充していかないといけませんね。

寶田:一般医科の方では、もう既にゴールドプラントか新ゴールドプランというのが厚生省を中心に盛んに議論されていますが、歯科の方ではやっと動きだしたかなというところですか。下手をすると、このケアの問題は看護婦の領域に取り込まれてしまうかもしれませんよ。ですから、相当目を光らせて行政と対応していきませんとね。

司会:そこら辺のところは日歯で十分検討してもらわないといけない分野だと思います。

鹿島:障害者歯科の話ですが、老人は障害者ではありません。全く違う分野です。どちらかというと、老人歯科と障害者歯科を並べて、同じニュアンスで捉えられることが多いんですが、全く別ものです。

老人歯科というものを、もっと深刻に考えていかなければならない、と思います。

司会:障害者学会と老人歯科医学会では、かなり発表の領域がクロスしています。老人歯科医学会の方達のお話でも、障害者なんだという捉え方が一般的ですね。

つまり自分で自発的に思い立って通院することができない人、というふうに定義すると、老人も障害者も同じ範疇に入っているということで、何かそういう定義が一般的なようです。しかし、老化というのは正常な生理ですから、概念的に分けておく必要があるでしょうね。

鹿島:そうですね。当然ケアの仕方も違ってますしね。

寶田:これは、我々の想像を絶する事態が起こるんでないですか。

鹿島:そのような事態を薬剤関係メーカーは目敏くキャッチしているみたいです。コレステロールを減少させる「メバルチン」という薬があります。これが年間、1200億円近くも売れています。

今回エーザイが初めて、骨粗鬆症治療薬のビタミンK2(納豆にも含まれているらしいんですが)を、10年がかりで開発しました。これが当たるともう大変ですよ。しかも骨粗鬆症は、顎骨の変化や歯牙の喪失と相関していると、広島大学の先生がデータを出しています。そういう意味では薬剤関係者は老人社会を意識して、新薬の開発を行っています。歯科は老人医療にちょっと立ち遅れている気がしないこともないです。

広報委員:顎関節の話に戻りますが、診断ということで、CTとか色々使うものがありますね。どれも医科で非常によく用いられるもので、歯科には来にくいものです。そこで頭部痛の管理という面で、診断は医科でやって、治療は歯科でやる、という話を聞いて危惧の念を抱いたことがあるんですが。

鹿島:一般に私たちの世界で、生理学的に解明されていないものが3つあるんです。一つがペイン、痛みです。二つ目が眠りのメカニズムです。三番目が顎関節のムーブメントです。我々、歯医者がメインにタッチできるのは顎関節のムーブメントなんです。それが歯科の最後の砦なんですね。

最近、神奈川歯科大学の近くに、そのセンターができたんです。MRIを実際に歯医者さんが買って、診断センターとして経営しています。TMJビデオ画像、あるいは所見を依頼された歯科医に画像情報を提供しています。

いわゆる、医療情報センターというものです。開業している歯科医の先生がそこへ患者を送って治療をした後の円板の動きとか、回復の度合いとか、咬合調整といった、マイナーな顎関節の治療をやっていただきたいんです。開業の先生が積極的にこのような施設を利用するようでないと、ただの医科のセンターになってしまいます。

医科からしてみれば、これは非常に面白いアイデアであることは分かっていますが、そこまで手が回らないのが現状です。だから是非会員の先生方がこういった施設を利用して、積極的にTMJの治療に手を染めていただきたいと思いますね。

そういう意味で、僕は講演をするときは、いつもそれをアピールしているんです。歯科医にとって、最初で最後のムーブメントですよと言っているんです。

今はインターネットという情報システムが発達していますので、その情報を患者さんと共に設備の整った歯科医師会経営のセンターに送り撮影をする。その情報をデータベースに中に入れておく。そして、今度は各開業の先生方がインターネットでデータベースにアクセスして情報を得、顎関節の治療計画を組んでもらうと。

そこで分からないところがありましたら、専門の外科の先生にデータを送ってアドバイスをいただく。そういった情報ネットワークが、これから進んでまいりますから、歯科医師会共々、中心的な役割を果たすと共に、その地域の会員の先生方をもっとバックアップすべきであろう、と私は思うんです。

司会:本会では一応、8年度早々にはインターネットのホームページを作る予定で検討中なんです。そういったデーターベースを作っておくことが、将来的な情報の共有という意味で、会員に有用であるということは、十分認識しております。

鹿島:現在、マイナーな矯正治療法は一般の開業医の先生方が積極的に取り組んでいます。マイナーな顎関節の治療にも開業医の先生方がもっと積極的になるべきだと思います。そういう意味では保険制度に導入するとかしないと、だんだん治療分野が狭くなって、何か先細りになっていくような気がします。

寶田:臨床の立場から言いますと、顎関節症について先程危惧されているようなことはまずないと思いますね。むしろ一昔前までは、顎が痛いというと整形外科や耳鼻科を受診して、それから歯科に回されてくるというのが結構ありましたけれど、最近は顎が痛ければ口腔外科ということが定着してきていますね。

それから、顎関節症の診断にMRIを保険で撮っているところもあるようですね。保険の審査で若干問題が在るのでしょうが。

MRIといえば顎関節の動きを動画で出していますね。

鹿島:ええ、シネ画像のことですね。

寶田:シネ画像で見ますと顎関節の動きがよく分かりますね。

司会:センター方式というか、お値段のかかる検査機械はどこかにドーンと置いて、皆でアクセルするという形ですね。

寶田:そういう形が理想的ですね。話が戻りますけれども、インプラントの術前診断でも、センターのようなところでCTのデータをとってもらい、それを手元にあるパソコンで、自由に画像診断するという時代が直ぐ来ますね。

鹿島:既にそういうことが行われています。

寶田:驚異的なスピードで皆がコンピューターを持つような時代になってきていますからね。

司会:情報の連携ということで、近い将来の話まで戻ってきましたので、座談会を閉じさせていただきたいと思います。大変有意義な、密度の高いお話を伺いまして、本当に勉強になりました。

本当に両先生、どうもありがとうございました。

:敬称略