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読売新聞 1995年 3月 18日

医療ルネサンス 792 いのちのプリズム-歯と健康-

糖尿病患者に歯周炎

近所の歯科医院で歯周炎と診断された75歳の女性が39度の熱を出した。あごがはれて食事がのどを通らず、東京・三井祈念病院の歯科口腔外科を訪れた。顔から首、胸にかけて化膿して大きく腫れ、緊急を要する事態だった。

この患者は糖尿病で右目が失明し、抗生物質も効かなかった。寶田博同科部長(当時)は「糖尿病が歯周炎の炎症部分を広げた恐れがある」と判断。同病院の内科医の協力を得て、インシュリンを投与し血糖値をコントロールしながら、局部をメスで切開してウミなどを取り除き、胸は外科医が担当した。

手術は成功し、全身麻酔からさめた女性は「夢で地獄を見てきた」と語った。血糖値が正常になったことで、次第に体力が戻って歯周炎も快方に向かい、一ヵ月半で退院にこぎつけた。

この種の手術は、内科、外科、麻酔科との緊密な連携が欠かせない為、同病院のように十分な機能を備えた医療施設が難しい患者を受け入れている。

寶田部長は「高齢化社会を迎え、歯科治療が必要な高齢者や慢性病患者は増えており、こうした患者への対応が重要になってきた」と語る。

寶田部長には、こんな経験もある。58歳の女性の歯を抜こうとして、念のために血圧を測ったところ、最高が202、最低が130と高血圧症。びっくりして本人に聞くと、「そんなに高いですか」と意外そうな答えだった。

高血圧患者は抜歯の際にストレスが危険を招く。結局、内科で降圧剤を投与してもらって正常値になってから、二ヵ月後に自動血圧計を付け、数値をチェックしながら慎重に処置し、事なきをえた。

「高血圧を見逃したら、どんな事態が起きていたか。病気の認識のない患者は怖いが、このような患者は今後さらに増えるだろう」と警告する。

「これからの歯科医は、トラブル回避のために心臓病や糖尿病などの医学知識がさらに必要になる。処置前に問診で病歴などを聞くことも一層重要になる」と指摘する。

要注意の病気は、心臓病、糖尿病、腎臓病など数多い。例えば高血圧治療で入院している患者数は、厚生省の調査によると、この30年で5倍、外来患者も約4倍に増えた。

感染性心内膜炎のように歯周病を起こしたは歯茎が細菌の感染源となり、血液を通して心臓に病気をもたらすケースもある。こうした場合は心臓手術前の歯科処置か不可欠とされる。

関心集める「全身管理」

かみ合わせの悪さが、肩こりや神経症にも結びつくと指摘されるように、歯について「全身管理」という新しい考え方が関心を集めている。

その流れは全国の大学病院でも、歯学部従来の「補綴科(ほてつか)」などに加え、「全身管理診療科」や「有病者診療科」などの新しい診療部門の開設となって表われている。日本有病者歯科医療学会も発足した。

毎年、国家意見で約3000人の歯科医が誕生する一方で、小児の虫歯が減少、「歯科医過剰時代」が懸念される中、厚生省も各都道府県レベルで歯科医を対象とした研修事業に乗り出し、医療知識の向上に力を注ぎ始めている。

これまでに主に大病院で治療してきたこれらの症状の患者を、一般の開業歯科医が診るケースも増えそうだ。

もちろん患者側も注意が必要。寶田部長は「多くの人が成人病の症状を自覚していながら、歯科治療の際に訴え出ないケースもある。まず、本人や介護者がはっきり病状を認識して歯科医と相談することが大切」と呼びかけている。

【1995年 3月 18日 掲載】