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コラム/メディア掲載

財界 2010年3月9日号

シリーズ:名医がすすめる「病」の克服! 歯科・インプラントの巻

ー生、自分の歯で食事を楽しむために必要な歯科治療法として注目

「しっかりモノを食べることができるのがインプラントの魅力。ただ、上手な歯科医を探すことも重要なポイントです」

歯が欠損した時、より自分の歯に近い形で修復する方法として注目されているのがインフ。ラント治療である。その権威である東京セントラル歯科・インプラントセンター院長の貧困博氏は「入れ歯で噛めない人や話しづらい人、入れ歯にどうしてもなじめない人のお役に立ちたい」と語る。インプラントとは何なのか。金銭面を含めたトラブルはないのか。インプラント治療の真髄に迫る。


インプラントとは何か?

寶田先生は50年近く歯科医師として働いてこられました。特にインプラントの分野で活躍されてきましたが、まずはインプラントとはどのようなものなのか。そこからお願いします。

寶田:一生自分の歯で食事を楽しみたいというのは多くの人の願いですが、現実は虫歯や歯周病で歯を失ってしまうケースが多いですね。こうした時、より自分の時間に近い形で修復することが可能な方法が「インプラント」治療です。
インプラントは、いろいろな原因で歯を失ってしまった場所の骨に穴をあけて人工の歯根を埋め込み、その上に、天然の歯とほとんど見た日の変わらない人工の歯を入れる治療法です。
あまりご存じないかもしれませんが、インプラントの歴史は非常に古く、その試みは古代エジプトの時代までさかのぼるといわれています。人間の自然な発想として、歯をなくした時、そこに歯と同じようなものを埋めようと試みるのではないでしょうか。奴隷の歯を抜いて埋めたということが記録に残っているそうです。

そんなに古い時代からあったんですか。

寶田:ええ。現存するインプラントで最も古いものは、一世紀ごろに上あごに埋められた鉄製のインプラントで骨と完全に癒着していました。驚くべきことに、このことは、現在使われているインプラントとまったく理論的に一致するものです。
こ、つしたインプラントの試みはある時期、盛んに行われたのかもしれません。
しかし、かつては診断法も発達していなかったし、材質も悪く、消毒の技術や手術後の感染予防の欠如などからことごとく失敗し、実用化できなかったと考えられます。そして、いわば代替法としてブリッジや義歯が発達してきたのではないでしょうか。

インプラントと入れ歯、ブリッジの違い

インプラントのお訴を進める前に、歯のないところを修復する方法として今までどんな治療法があったのですか?

寶田:歯のないところを修復する方法としては、大きく分けて三つの方法があります。
第一の方法はいわゆる「入れ歯」で正式には可撤性義歯といわれる方法です。取り外しのできる入れ歯で、レジンでできた義歯床の上に人工の歯を並べてつけたもので部分入れ歯では残っている歯にパネをかけて固定します。総義歯もこの仲間に入ります。歯の欠損部の大きさに関係なく使えることが最大の利点です。また、取り外しができるので清潔な反面、人によって異物感が強かったり発音がしにくかったり、よく噛めないなどの欠点があります。
第二の方法は、ブリッジです。歯の欠損している部の両隣りの歯を削って土台とし、欠損部を含めた橋状の構造物を作り土台の歯にセメントで固着させる方法です。入れ歯に比べれば機能的にはるかに優れていますが、入れ歯に比べると適応範囲が狭く、土台になる歯が健全な歯であっても削らなければならないといった欠点があります。
そして、第三の方法がインプラントです。

インプラントの歴史は失敗の歴史とも言いますね。

寶田:はい。かつては貝殻、鉄、動物の骨、近代でも金やステンレス、さらにサファイアなどが使われましたが、うまくいきませんでした。仰る通り、インプラントは失敗の歴史だったのです。
ところが1952年、スウェーデンの整形外科医のブローネマルクが、現在のインプラントの基本となる大発見をしました。彼はウサギの骨にチタン製の器具を埋め込む研究をしていましたが、研究を終えて器具を取り外そうとした時、器具が骨とくっついて取れないことに気付き、このことから歯科インプラントにチタンを導入したわけです。このことはほとんど革命といってもいいものでした。
65年から本格的な人間への臨床応用が始まったのですが、ブローネマルクによって治療された最初の患者さんが亡くなるまで40年間ずっとインプラントがついていたそうです。それ以来、インプラントはほとんどすべてチタン製となり、飛躍的に予後が改善されました。

チタンといえば、よくゴルフクラブに使われる金属ですね。

寶田:ええ、ゴルフクラブに使われるのはチタン合金で、インプラントに使われるのは純チタンが使われます。

それでは、インプラントの良さと欠点について教えてください。

寶田:インプラントは人工歯根をあごの骨の中に埋めるため手術が必要です。また、インプラントを埋めるにはそのための骨がなければ埋めることはできません。もっと具体的に言いますと、もと歯が生えていた部分のあごの骨の幅と高さが必要で、さらに解剖的に危険な血管や神経を避けることができるだけの余裕が必要です。
インプラントは隣在の歯に何らの手を加えることなく単独で治療することができます。ブリッジのように健全な歯を削る必要もなく、入れ歯のような異物感やガタつきもありません。インプラントで噛んでいるという自覚もないのが通常です。

よい医師を見つけるには?

インプラントはどの位持つのですか。

寶田:きちんと手入れをしていれば世界的な臨床報告では40年以上、私の症例では最初に植えた方から数えて25年以上健全に維持されています。また、経時的に見て問題なく残っている率は大ざっぱにいって95%くらいといえます。

だいたい治療にかかる費用はどのくらい……。

寶田:インプラント治療に関わる治療はすべて自費診療となるため治療費は高額となります。値段の設定は自由裁量となりますので診療所によりまちまちです。平均的には植立手術が20~30万円、かぶせものが9~10万円、トータルで30~40万円と思われます。このほかCTを撮ったり、骨の移植や特殊な手術をした場合には追加の費用が必要となります。

インプラントの手術は誰でも受けられるのですか。

寶田:手術が必要なため、重度の内科的疾患を持っている方では受けられないことがあります。たとえば重症糖尿病、重症の循環器疾患、透析患者、心筋梗塞の方などです。また、骨粗鬆症の方で長年ビスフォスフォネート系の薬を服用している方は慎重な手術が必要です。
年齢的には、あごが成長期にある15歳以下のお子さんを除けば、あまり関係がないですね。ちなみに私の診療所では85歳の方が最高齢者で、50~60歳代の方が最も多い年齢層です。
ただ、骨の痩せている方には十分な骨があるかどうかCTなどで精査する必要があります。蛇足ながら、喫煙者の方は、インプラント手術の結果が芳しくなく、特にヘビースモーカーは残念ながら、諦めたほうがよいでしょう。

では、インプラントを希望した場合、よい歯医者さんを選ぶにはどうすればよいですか?

寶田:「医者を選ぶのも寿命のうち」といわれますが、よい歯医者を選ぶのも至難の業でしょう。ホームページや情報誌による満ち溢れた華やかな情報から選ぶのはわれわれ同業者でもなかなか困難です。したがって、ここではごく一般的な話になるかもしれません。
まず、関連学会の専門医あるいは指導医の資格を持っている先生があげられます。会員数は約1,000名と少ないが、口腔外科あるいはインプラントの大学関係者の多い日本顎顔面インプラント学会の指導医、会員数は12,000を超える開業医が主体の日本口腔インプラント学会の専門医および指導医があげられます。
また、日本口腔外科学会の専門医、指導医はインプラントの手術に関しては安心して任せられるでしょう。情報誌などに書かれているインプラント根立数は必ずしも信用できない面がありますし、費用の高い、安いも評価基準にはなりません。設備の立派さや診療所の豪華さも直接的には参考になりません。
結局のところ、口コミやインプラントの良い経験をお持ちの方から紹介してもらうか、あるいはインプラントをしていないかかりつけの歯医者さんから紹介してもらうのがよいかもしれません。

患者本位の治療を目指して!

最近、インプラントを看板に掲げる歯科医院が多くなってきたと言いますね。

寶田:はい。自費診療である高額のインプラント治療は開業歯科医にとって経済的に大きな魅力となっています。また、インプラント手術それ自体は、技術的にけっして難しいものではないため、最近では多くのいわば未熟な歯科医がこの手術に参入しています。
一方、患者さんの方もインプラント治療に対する理解と評価が高まり、施術を希望される方が増えてきました。このため、残念ながらトラブルが多発しているのが現状です。インプラント治療を成功させるには、単なる表面的な技術だけではなく、手術の成功を支える基本的な知識や手技、診断能力や消毒・滅菌の遵守、解剖学的な診断と知識、トラブルを起こさないための慎重さ、万が一トラブルを起こした時の対応能力など総合的な能力が要求されます。
昨年、インプラント治療によって亡くなられた不幸な事件が報道され、また最近では「使いまわし」といった誠に非常識な事件が報道されました。患者さんは担当医を全面的に信頼している訳ですから、その信頼を裏切ることは許せませんね。多くの良心的な歯医者さんが大変な迷惑を被ったのではないかと案じています。

本当ですね。最近はインプラントも自由診療ではなく保険の対象にすべきだという声も出てきました。

寶田:ええ。しかし、現在の経済状況をみるとまず困難でしょうね。ただせめて口腔がんによって口腔の機能を失った患者さんにだけは給付を考えてほしいものです。
数年前、私の診療所でインプラント治療を受けられた患者さんが「40年ぶりにスルメを食べました」と感動的におっしゃいました。ご自分の歯はたったの一本しかない方です。それを聞いた時、私は涙の出るほどうれしかった。
インプラント治療は高額であり、時に不幸な事件もありますが、歯を失った方には素晴らしい治療法であることは間違いありません。ぜひ勇気をもって治療を受けてください。

 

【財界 2010年3月9日号掲載】

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