インプラント治療の長い経験と口腔外科専門医による安全確実な手術
インプラント時代の到来!
自然なそしゃく機能と歯の美しさを取り戻すためのインプラント治療
何でもバリバリ咬んだ若い頃の再現です
ある患者さんの言葉「40年ぶりでするめを食べました」。別の患者さんは「先日、焼き鳥の軟骨を食べました」。インプラント治療ではよくある話です。
何かの原因で歯を失ったとき、歯と同じようなもので回復しようとする試みは最も単純な発想です。このことが歯科インプラント(単にインプラントということが多い)のルーツで、入れ歯やブリッジより古くからあったものと思われます。エジプトの遺跡には奴隷の歯を抜いてあごの骨に埋めたとか動物の角を削って移植したという記載があるといわれています。しかし、こういうインプラントは上手く行く訳がなく、ほとんどすべて感染のため失敗しました。驚いたことに1世紀ごろに生存していた人の上あごにくっ付いた状態で鉄製のインプラントが発見され、これが現存するもっとも古いインプラントとされています。しかし、このように成功したインプラントはきわめてまれでごく最近まで「インプラントの歴史は失敗の歴史である」とさえいわれてきました。シェルシェブという有名なインプラントの臨床家が書いた本にはありとあらゆる形態をしたインプラントが試みられてきた歴史が記載されていますが、今から考えれば、これらのインプラントはことごとく失敗したといっても過言ではありません。今から20年前ごろでしょうか日本ではインプラントを植えた後骨髄炎をおこしたり、グラグラして取れてしまったりという失敗がテレビなどで大きく報じられ、インプラントは不適切な歯科医療として非難されたことがありました。
しかし、最近では全く逆に素晴らしい医療として評価が高まっています。この対照的な評価は一体どうしたのでしょう。これは最近の20~30年前からインプラント臨床に画期的な進歩があったからです。それはスエーデンの整形外科医であるブローネマルクがインプラントの素材としてチタンを使用したことに端を発しています。チタンの導入はインプラントの歴史に革命的な進歩をもたらしました。
さて、ここでインプラントというのはどういうものなのかについてあらためて説明しましょう。
インプラントは、ムシ歯や歯周病、事故などにより大切な歯を失ったとき、歯の生えていたあごの骨に穴を掘り人工の歯根を植え込み、その上に人工の歯(上部構造)を作ることによって咀嚼、審美、発音など機能回復をはかる方法です。その際、インプラントはただ骨に埋まっているだけでなく、顎の骨と直接結合することで、まるで生きている歯のように骨に固定されて機能します。先にも述べたとおり現在のインプラントは、チタンで作られていますが、チタンは基礎および臨床研究から体への親和性にすぐれており、骨とくっつくという特性があり、さらに医科領域では人工関節や心臓のペースメーカ等にも使われるくらい安全性の高い材料です。入れ歯ではどうしても満足することが難しかった"食べる・話す"こともインプラント治療によりご自分の歯と同じような感覚を取り戻すことができます。
現在、日本で使われているインプラントは、国産のもの外国製のものを合わせて40種類以上あります。材料はすべてチタン製で形態は円柱状あるいは類円柱状で全体として棒状を呈しています。直径は3mm程度から6mmの太さで一端が骨の中に入る部分、もう一端が粘膜の上に出てクラウンなどのかぶせものの付く部分となっています。インプラントは、全体が一つの単体となっているワンピース型と、ほぼ半分から二つに分かれているツーピース型の2種類あります。ツーピース型では二つの部分は最終的には細いネジで結ばれ全体としての形態はワンピース型とほぼ同じ形態となります。
ツーピースインプラントは、これを植える時の方法によってさらに2種類に分類されます。

手術の回数が1回で済むもの、手術の回数が2回必要であるものです。前者を1回法、後者を2回法インプラントと呼びます。
インプラントは、あごの骨の中に植えるわけですから、熟練を要する口腔外科の手術にあたり、外科的手術に豊富な経験を持つ歯科医師が行うべきです。後述するようにインプラントを植える部分の骨の状態が量的や質的に条件を満たしていないとインプラントを植えることはできません。このため、手術に先立って、上あごと下顎の噛み合わせの状態を調べたり、あごの骨の状態を詳しく調べることがまず必要です。レントゲン写真を撮ったり、必要に応じてCTを撮ったりすることもまれではありません。
最近では、依頼するとCTやMRを撮影してくれる専門の医療施設が都内では何か所もでき、高価なこういった設備を気軽に利用できるようになりました。これらの術前の診断は、手術によるトラブルを避けるためにも重要な手段です。インプラントを植えることは粘膜を切開したり骨に穴をあけたりする訳ですから口腔外科の手術に当たります。
あごの骨の中にチタン製のネジを植えるのですから当然麻酔が必要です。通常の症例では、局所麻酔の下で十分手術が可能です。骨自体は痛みを感じないため、通常の抜歯を行う時より麻酔は良く効くため手術中に痛みを感じることはほとんどありません。
麻酔が十分効いたことを確認した後、あごの骨を覆っている粘膜を切開剥離して骨(歯槽骨といって歯が生えていた部分の骨)を露出させます。次にあらかじめ術前の診断で決めてあった位置に予定通りインプラントを植えることが可能かどうかを確認し、最初は細いドリルによって10mm前後のガイド孔を掘ります。穴の方向が正しく掘れているかを確認した後、段階的に太いドリルを使って、この穴を徐々に拡大して行きます。人工歯根の太さまで穴を拡大し、レンチを使ってインプラントを植え込みます。2回法のインプラントではこのあといったん粘膜を縫合してインプラントを覆って手術を終了します。挿図はインプラントを植立した状態の模式図です。
こうした手術には、厳格に滅菌された器具を使用し、患者さんを清潔な布で覆い、消毒に十分配慮した環境で行うのはいうまでもありません。
当院で使用しているインプラントは、東京医科歯科大学附属医用器材研究所無機部門とアドバンス社の共同により開発された国産のAQBインプラントシステムです。このインプラントは1回法のワンピースインプラントで骨の中に埋まる部分にはハイドロキシアパタイトという骨や歯の主要成分がコーティングされおり、数週間で骨と完全に癒着します。つまり1回の手術で植立を行い、数週間後にはクラウンなどの上部構造が装着され治療は完了します。このインプラントが認可される際には、私が30年以上部長として奉職していた三井記念病院の歯科口腔外科で治験を行い、これを基礎として新しいインプラントとして発売されたのです。その後、このインプラントの普及には私が中心となって、植立手術の研修を全国で行いました。現在このインプラントは国内で5本の指に入るシェアを持っています。現在まで3,000本近い植立をわたくし自身が行っており、このインプラントの基礎と臨床については特に熟知していると自負しています。
私の診療所でインプラント治療を受けた患者さんの最高齢の方は85歳の男性の方です。後述するようにあごの骨の状態、健康状態が良好であれば年齢的な条件はあまり関係がないとわたくしは考えています。経済的な条件も重要ですが、高齢者の方には、余生の生き方に二つのタイプがあるように思います。「どうせ先が短いから」といって積極的な歯科治療を希望しない引きこもりがちなお年寄り、一方で、しばしば旅行に行ったり、友人とレストランで食事をしたり、朝は自宅の周りを散歩したりといった積極的な生き方をしているお年寄り、歯の治療には特に積極的でインプラントを強く希望します。さて、あなたはどちらのタイプでしょうか。
私の診療所では50~60歳の方が最も多い年齢層となっています。
お年寄りに対して若い人に対するインプラント治療はどうでしょうか、一般には歯列矯正のために使われるインプラントを除けば、乳歯の時期や顎の成長期である16~17歳以下の場合は控えた方がいいでしょう。
8020運動(80歳で20本の歯を維持しようという運動)に象徴されるように、歯科医療が進歩した現在、若い人では歯を亡くした人が少なくなってきています。また、少ない歯の欠損ではブリッジという方法もありますから、必然的にインプラント治療を希望する方は成人からお年寄りの方が多くなります。医師会の資料によりますと高齢になるほどかかっている病気の数が増え、同時に服用している薬の数が増加します。
一方、厚生労働省の統計によりますと高齢者に達する年齢層から、認知症、高血圧症や虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)、生活習慣病の代表である糖尿病、さらに女性を中心として骨粗鬆症などが急激に増加する傾向があります。こういった高齢有病者の方に対するインプラント手術に際しては、当然基礎疾患に対する配慮が必要です。一部の重症な患者さん、例えば、収縮期血圧と拡張期血圧が高い中等症以上の高血圧症の方、頻繁に心臓発作を起こしている方、最近心筋梗塞をおこした方、高度の糖尿病の方、認知症の方に対してはインプラントの手術が受けられないこともありますが、現在内科で治療を受け良好に治療がされている方では心配なくインプラントの手術が受けられます。
骨粗鬆症の方でビフォスフォネート系の薬を使っている方については、あごの骨の関係する手術に際して骨髄炎を起こす危険があることが最近指摘されていますが、内服の場合(ボナロンなど)ではインプラントの手術は抗菌薬の術前投与によってほとんど問題はありません。
インプラントは、あごの骨(歯槽骨)の中に植える訳ですから、植える部分の骨が必要なだけの高さと幅を持っていないと植えることはできないことになります。このため術前の診断で骨の状態を詳しく調べます。視診(目でよく観察する)、触診(指で詳しく触ってみること)でだいたいの状態を把握し、あご全体のレントゲン写真(パノラマ写真)を撮影します。画像診断では、骨の高さやある程度骨質の診断もつきますが、その他大切なことは骨の中に思わぬ病気がないかどうかについても診断します。手術の際避けなければならない神経や血管の走行や上あごでは上顎洞(上あごの骨の中にある副鼻腔の1種)の大きさや底の部分の高さなども診断します。さらに詳しいあごの状態を知るために、最近ではCTがよく利用されます。都内では少なくとも数か所のCT専門の診断施設があり、必ずしも自施設で高価な機器を購入しなくとも簡単に利用できるようになりました。
前日から睡眠など体調管理には十分気をつけて下さい。また、指示された薬がある場合は忘れないようにして下さい。また、内科からの薬を服用している場合は、服用するかしないかお尋ねください。当日体調を崩されている場合は、手術を延期させていただくこともありますのでご了承ください。
インプラント植立手術後の治療経過の目安です。ご参照ください。
| 手術 | 術後 | 以後 定期的に 予後観察 |
||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 当日 | 翌日 | 約1週 | 約2週 | 約3週 | 約4週 | 約5週 | 約6週 | |
| インプラント植立 | 創部の消毒 | 抜糸 | 経過観察 | 経過観察 | 型取り | 試適 | 終了 | |
ここでは、インプラントに関連した先端技術について少し触れてみましょう。インプラントは骨の中に植えるわけですから、植立する部分に骨が少ないと植立はできないこととなります。十分な深さに植えることができないのに無理に植えれば予後不良となって脱落することは避けられないでしょう。このような場合、植立部に骨を作ること(骨の増(造)成;GBR)や、古くから口腔外科の技術として行われていた骨の移植が応用されています。さらに、こういった場合に人工骨として、ハイドロキシアパタイト(骨や歯の無機成分の主成分)を併用する技術も行われています。骨の高さを徐々に高めてゆく技術(Distraction)、骨の幅を一気に広げる技術(Split crest technique)、さらに、下あごのケースで植立部に障害となる神経を移動させる技術(下歯槽神経移動術)などもおこなわれています。しかし、このような技術は長期的な経過では必ずしも良好とはいえない場合も多いように思われます。手術環境や技術的な難易度からいっても一般の診療所で安易に行うべきではないでしょう。
副鼻腔の一つである上顎洞は年齢とともに拡大する傾向のあることが知られていますが、このため、一見上あごの骨が十分あるように見えて実際は歯槽部の骨が2~3mmと極端に薄い場合がよく見られます。このような場合に上顎洞の底の部分に骨を移植し、インプラントの植立を可能とする方法(Sinus lift, socket lift)は比較的予後が良好なため、近年よくに行われています。このうちSinus lift法では上顎洞を開窓する必要があり、また体の他の部位(下あごの骨、腸骨、足の骨など)から骨を採取する必要があります。
以上のほか、骨の再生を促す因子(BMP,PRP)を積極的に応用すること、審美的な目的のため軟組織を移植する方法(結合織移植)なども行われています。
近年、インプラント治療の基本的フィロソフィーとしてトップダウントリートメントが提唱されていますが、考え方としては分かりやすく、正当な方法として受け入れやすい反面、このような考え方を実際の臨床で実施することを可能とする周辺の技術が熟しているとは私自身は考えていません。
インプラント治療は高額であるため、金銭的なトラブルも多いと聞きますが、ここでは医学的なトラブルについて簡単に説明しましょう。大きく分けますと、全身的なものと局所的なものに分けられます。すでに述べたようにインプラント治療の対象となる患者さんは高齢者の方が多く、しかもなんらかの内科的な病気を持っている方が多いようです。私の統計では2/3の方が高血圧症、狭心症、糖尿病などの病気をお持ちでした。しかし、糖尿病を除けば、ほとんどの方が内科的な治療を受けられており、心配なくインプラントの手術を受けることができます。インプラント治療を希望されている患者さんで健康に自信のない方は、三井記念病院をはじめとして専門医をご紹介し、あらかじめ診察を受けてから手術を受けるように手配しています。半年以内に心筋梗塞を起こした既往のある方、未治療かコントロールの悪い甲状腺疾患のある方、重症な血液疾患のある方、透析を受けられている方などでは術中や術後に合併症を起こす危険が高いため、残念ながらインプラント手術は避けたほうがよいでしょう。
糖尿病はいまや国民病となっており最近の厚労省の統計では、国民の3人に一人が糖尿病かあるいは糖尿病の予備軍とされています。しかもこれらの方の多くが未治療か治療を中断している場合が多いとのことです。糖尿病では感染に対しての抵抗性が減弱するため術後に感染をおこし、インプラント手術が失敗する可能性が高まります。糖尿病の患者さんでも血糖値が良好にコントロールされている方(HbA1Cが6.5以下が望ましい)では全く心配なく手術が受けられ、予後も良好です。
最近、インプラント手術後、出血のため亡くなったとの衝撃的な事件が報道されました。また、表面には出てきませんが、小さなトラブルはよく耳にします。こういったトラブルはどうして起こるのでしょう。歯科医院の経営的な理由から、にわかにインプラント治療を導入さる未経験な医師が急激に増えてきました。
インプラント治療に際して起こるトラブルのうち、重大なものは手術に関連して起こります。インプラント手術は、口腔外科の手術であり、当然術者には口腔外科の知識と手技が要求されます。また、術後の管理や不幸にして起こった偶発症に対するリカバリーの能力も要求されます。安全な手術を行うために必要なもっとも基本的なものは、局所の解剖学的な知識です。インプラントの手術は、基本的にはあごの骨の中で行う手術であるため、あごの解剖を熟知していれば決して難しい手術ではありません。口腔外科医にとっては、いわば扱いなれた領域といえます。基本的なことを無視して神経や血管を傷つけたり不用意にあごの骨を貫通するなど無謀な操作をすると危険です。トラブルのうち最も頻度の高いのは、下顎のインプラント手術に際して不用意なドリル操作によって下顎の中を貫通している神経と血管の束(下歯槽神経血管束)を傷つけた時の出血と神経麻痺の偶発症です。手術操作を不用意にあごの外(特に内側;口腔底)に進めるとさらに危険です。上顎の手術に際してのトラブルでは、上顎の骨の直下に広がる副鼻腔の一つである上顎洞への穿孔が頻度の高いものとして挙げられますが、上顎洞に蓄膿症などの感染症がない場合は、あまり心配はありません。
インプラントは健康保険が適用されないため、検査から治療まですべて自己負担になるので、かなり高価な治療であることは事実です。費用に関してはかなりバラツキがありますが、料金が高いところがうまいというわけではありません。
インプラントは、集学的な技術が必要な治療法ですが、絶対に避けなければならない手術時のトラブルを考えれば、日本口腔外科学会で専門医や指導医の資格をとっている歯科医師や大学の口腔外科やインプラント科でトレーニングを受けた医師、さらに、会員数は少ないですが、口腔外科の医師が中心となって作った日本顎顔面インプラント学会の専門医や指導医の医師が安心でしょう。インプラント治療の集学的な意味からは、日本口腔インプラント学会の専門医というのも目安になると思います。こういった資格と無縁な医師や経済的な面ばかりを強調する医師はいかがなものでしょうか。上手な歯科医を探すことも成功の条件といえます。

左の図は、治療前のレントゲン写真です。すべての歯が高度の歯周病に罹っており、さらに多くの歯の根の先に感染巣を持っています。下あごの一部の歯を残し、上あごの歯はすべて抜歯しました。右の図はインプラントによって治療を終了したところです。